衆院選2026のそもそも論とジェンダー・セクシュアリティ政策のこれから

自民党が大勝し、中道が惨敗した衆院選について。高市政権下でジェンダー・セクシュアリティをめぐる政策はどうなるのか
松岡宗嗣 2026.02.11
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今回の衆院選は、自民党の大勝と、中道の惨敗という結果になりました。小選挙区が真っ赤に染まる日本地図を目にし、絶望した人も少なくないでしょう。

ただ、いくつか「そもそも論」として確認しておきたい点があります。

今回の選挙は、戦後最短とされる解散からの超短期決戦でした。高市政権にとって有利な状況で行われた選挙であり、非自民のリベラル派にとっては、最初から非常に厳しい戦いだったと言えます(ここまでかという気持ちはありますが)

これまで衆議院・参議院ともに与党が過半数を割る状況が続いていました。これは国会のパワーバランスが拮抗し、変化が起こりやすい状況とも言えますが、高市政権としては動きにくい。自分たちだけで政策を進めるため、与党で過半数を確保したいという強い動機があったでしょう。

高市首相の支持率が高い一方で、国会で予算委員会が始まれば、野党からの追及によって支持率が下がる可能性もあります。「今なら勝てる」と判断し、戦後最短とも言われる強行的な解散に踏み切ったと言えます。首相が単に党利や権力のために、自分に有利なタイミングで自由に解散できてよいのかという点には、大きな疑問を抱かざるを得ません。

結果として、騙し討ちのような超短期間の選挙が行われました。高市首相個人への支持は高いものの、自民党の支持率自体は必ずしも高いわけではないなかで、「高市早苗が内閣総理大臣でよいかどうかを決めていただく」という、いわば政権選択のナラティブで押し切った形です。

本来、選挙で重要なはずの各政策について説明や議論の姿はほとんど見られませんでした。あえて議論を避け、高市首相への賛否という一点突破で突き進んだ印象です。高市首相はNHKの日曜討論をドタキャンし、一方で自民候補の応援演説には駆けつけ、SNSなどでの一方的な発信が目立ち、議論から逃げたという印象は否めません。

選挙は大雪のなかで行われました。期日前投票所の数は減り、投票できる時間も短縮され、投票所に長蛇の列ができた地域もありました。点字の選挙公報が間に合わないのではないかという指摘や、在外投票ができなかった人もいました。こうした状況を見ると、政権がマイノリティの視点ーーつまり「すべての国民」を大切にしようとしてはいない、ということが明らかで、参政権という民主主義の根幹から見ても、大きな疑問が残ります。

それでも投票率は56.26%と、前回よりは上昇しました。ただし、戦後5番目の低さであり、依然として低い水準にあることは変わりません。

小選挙区制の影

投票結果を見ると、自民党は316議席を獲得し圧勝。一方で中道は49議席と惨敗しました。高市政権にとって有利な状況だったとはいえ、ここまでの差がつくとは思わなかった人も多いのではないでしょうか。

ここでも改めて、そもそも論を確認しておきたいと思います。小選挙区制では、最も多く票を集めた1位の候補者のみが当選し、たとえ僅差であっても2位以下に投じられた票は議席に反映されません。

今回、自民党の小選挙区における得票率は49.2%でしたが、議席占有率は86.2%に達しています。一方で、中道に投じられた票のうち、小選挙区で議席につながらなかった、いわゆる「死票」は95.5%にのぼるとされています。

小選挙区制は、政権交代可能な二大政党制を想定した制度だと言われます。しかし、「自民党とその他多数の政党」という現状では、自民党が勝ち続け、政権交代は起こりにくくなります。つまり、2位以下の候補者に投票した少数の声が、政治に反映されにくい構造になっているということです。

野党間で候補者調整が行われ、一騎打ちになることもありますが、今回は十分な調整がなされませんでした。例えば中道と国民民主党は46の選挙区で競合し、いずれも自民党に敗れています。しかし両党の得票を合算すると、15選挙区で自民党を上回っていたという分析もあります。

比例代表の得票を見ると、自民党は2103万票、得票率は36.7%でした。つまり比例では約4割が自民党に投票し、約6割は「自民党ではない政党」に投票したことになります。こうして見ると、小選挙区で自民党が圧勝した「真っ赤な日本地図」の印象も、少し違って見えてくるのではないでしょうか。

中道は1044万票、得票率は18.2%でした。前回の衆院選では、立憲民主党が1156万票で21.1%、公明党が596万票で10.9%でした。「1+1が2になる」という想定で新党が結成されたと言われていますが、比例では公明党出身候補が全員当選していることを考えると、旧立憲民主党の票が崩れたと見ることもできます。高市旋風で自民党が票を伸ばした側面はあるものの、投票率が大きく上がったわけではなく、自民党が大勝したというより、中道、特に旧立憲の票が瓦解した結果だと言えるかもしれません。

高市人気の背景と懸念

高市首相の支持率の高さには驚かされます。各所で報道されている通り、その多くはイメージによる支持のようです。「初の女性首相で何か変えてくれそう」「はっきりものを言う姿がかっこいい」といった声は、よく耳にします。

高市首相のような女性保守政治家の台頭は、「時代の必然だ」という指摘もあります。朝日新聞のインタビューで、岩手大学の海妻径子教授は、極めて男性中心の政界のなかで、90年代の新党ブームで擁立された女性政治家たちが、地盤や専門性を欠くと公認を失う一方、タカ派的な新保守主義政策を強硬に主張することで生き残ってきた背景を指摘しています。

就任後、高市首相は早速「台湾有事」について「存立危機事態になりうる」と発言し、中国が強く反発、日本産水産物の輸入を停止しました。中国との緊張は安全保障面でも経済面でもデメリットが大きいはずですが、こうした強硬姿勢そのものがむしろ支持者からは評価されているのでしょう。

外国人に対する反発も根強く、自民党もその論理に乗り、選挙期間中には移民排斥の言葉が多く見られました。しかし、在留外国人を増やしてきたのは、むしろこれまでの自民党政権です。「移民ではない」「一時的な労働者だ」と言いながら、技能実習や特定技能制度を通じて、実質的な移民受け入れを進めてきました。本来必要なのは、こうした外国人が日本語や文化、慣習などを学べたら地域で問題なく生活できるよう支援する政策のはずです。それにもかかわらず、都合よく「移民ではない」と言いながら、排外主義が広がるとそれに加担する姿勢には強い疑問を感じます。

自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題では、政治資金収支報告書への不記載・誤記載が、少なくとも総額5億円にのぼるとされていますが、「みそぎは済んだ」という扱いになっているようです。

また、霊感商法や高額献金などの違法性が指摘されてきた旧統一教会と自民党の関係も問題視され、「TM報告書」には高市首相の名前が32回登場するとされていますが、これらも大きく追及されることはありませんでした。

円安が進み、輸入物価が高騰し、生活が厳しくなるなかで、高市首相の「円安で外為特会はホクホク」という発言に批判が集まりました。「責任ある積極財政」を掲げていますが、財政悪化への不安から円安がさらに進めば、輸入に依存する食品価格は一層上昇する可能性があります。一部の富裕層がさらに富む一方で、格差は拡大し、高市首相を支持している一般の人々の生活は、むしろ厳しくなるかもしれません。

さらに、高額療養費制度の引き上げが決定され、今後も2年ごとに引き上げられる可能性があるとされています。これは、誰もが将来利用する可能性のあるセーフティーネットが、切り崩されていくことを意味します。

高市首相は、選択的夫婦別姓や同性婚にも反対しており、多様な個人の権利や自由を制限する立場を取っています。こうした点が大きく問題視されることなく、イメージ先行で支持が集まっている状況には、強い疑問を抱きます。

瓦解した中道

野党第一党の立憲民主党は、非自民票の受け皿であるはずでした。しかし今回、公明党とともに新党「中道改革連合」を立ち上げた結果、立憲支持層の票を失い、非自民の受け皿としての位置を失ったように見えます。

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続きは、3747文字あります。
  • SNSの弊害
  • ジェンダー・セクシュアリティ政策のこれから

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